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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)2036号 判決 1979年5月16日

控訴人・原告 丸山幸輔

訴訟代理人 松井道夫

被控訴人・被告 直江津海陸運送株式会社 外一名

訴訟代理人 横尾義男

主文

一  頭書両事件の原判決をいずれも取消す。

二  右両事件を新潟地方裁判所高田支部に差戻す。

事実

控訴人は「主文と同旨」の判決を、被控訴人らは「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか各原判決の事実欄に記載されているとおりであるから、これをここに引用する。

一  被控訴人らにおいて、被控訴人会社は昭和五三年一〇月三日その取締役会において昭和五三年(ネ)第二、〇三五号事件につき佐藤吉衛を、同年(ネ)第二、〇三六号事件につき荻野周次郎を、それぞれ被控訴人会社の代表者と定めた、と述べ、控訴人は右主張事実を認めた。

二  (立証省略)

理由

控訴人が現に被控訴人会社の取締役であり、また被控訴人会社がその資本の額が一億円以下の株式会社であることは本件弁論の全趣旨から明らかであり、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第二四条にいう取締役が会社に対して提起する訴とは、取締役たる資格において提起する訴であるとしからざる訴であるとを問わず、およそ会社の取締役が当該会社を相手方とするすべての訴をいうものと解すべきであるから、本件両事件における各訴はいずれも同条にいう訴に該当するものというべきところ、右各訴提起当時未だ被控訴人会社に同条による会社代表者が定められていなかつた(このことは本件弁論の全趣旨から明らかである)のに、いずれも被控訴人会社の代表取締役荻野周次郎を被告を代表すべき者として提起した右各訴はいずれもこの点に瑕疵のあるものである。

なお、昭和五三年(ネ)第二、〇三五号事件(原審、同年(ワ)第二三号)は、商法第二五七条による取締役解任の訴に関するもので、この訴は少数株主が不正行為等をなした取締役に対し、その資格を剥奪する効果をもつ裁判を求める形成の訴と解すべきところ、この訴訟の被告適格については、その裁判の効果を直接受ける紛争の一方当事者たる当該取締役、及び右裁判につき法律上直接の利害関係を有する右取締役の属する会社のいずれにもこれを認めるのが相当である。そして、この両者のうちいずれか一方のみに対する裁判が当然他方に対しても効力を有するとする根拠に乏しく、また、この訴訟の目的は両者につき合一にのみ確定すべき場合であるから、右訴訟は右両者を共同被告とすることを要するものと解するのが相当である。したがつて、右事件につき被控訴人会社に対する関係において訴を却下すべき事由があるときは、右の訴は全て却下されるのが相当である。

しかしながら、前記の瑕疵は民訴法第五八条、第五六条により特別代理人の選任を得る方法により補正することのできる欠缺であるから、同法第五三条により期間を定めてその補正を命じ、控訴人においてこれに応じないときに初めて訴却下の判決をなすべきであり、この手続を経ることなく右瑕疵を理由として直ちに本件各訴を却下する旨の判決をすることは許されない。(なお、本件弁論の全趣旨によると、右各訴の提起後の昭和五三年一〇月三日に、前記第二、〇三五号(原審、前記第二三号)事件の訴について佐藤吉衛が、前記第二、〇三六号(原審、前記第三〇号)事件の訴について荻野周次郎が、それぞれ被控訴人会社を代表すべき者として選任されていることが認められるから、原審においてこれらの者を右各訴につきそれぞれ被告会社代表者とし改めて手続を進めれば足りる。)

したがつて、右手続をとらず漫然と控訴人の本件各訴を却下した原判決は失当であつて、取消を免れず、本件控訴は理由がある。

よつて、民訴法第三八六条、第三八八条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 判事 鬼頭季郎)

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